秋湿り

※こちらのお話はかまくらさんのイラストを拝見して衝動が抑えられなくなり書かせていただきまし た!掲載の許可はいただいています。まずはぜひかまくらさんのサイトへ……!!
 

 休暇がとれたからと久々に千迅が京都までやって来ることになっていた。千尋はその連絡を受けると、早速於じまに仕出しの予約を入れた。千迅の到着は夕方になるという。それまでに千尋は客用の布団にシーツを掛けたり、千迅の好む地酒を購いに行ったりして準備を整えていた。お互いの仕事の関係で休暇がすれ違い、千尋が千迅と逢うのは半年ぶりだった。

  ◇

 於じまから仕出しの料理が届いてから間もなく、玄関の戸が叩かれた。千尋はたまらず玄関までの廊下を急ぐ。
「久しぶりだな千尋。」
 手土産を提げた千迅がいつもと変わらない様子で立っていた。事前に家でゆっくり食事をしようと提案していたため、千迅は白のコットンシャツにジーンズというラフな格好だった。
「……遅かったんぢゃないのか。」
「いい子で待ってくれていたんだな。」
 千迅は遠慮なく玄関を上がると、勝手を知る室内を先に歩いて居間に向かう。久々に顏を合わせた千尋の照れ隠しは千迅には見透かされており簡単に受け流される。
 食卓の用意は既に終わっていた。千迅は土産を千尋に渡すと旅装をとく。台所で包みを開いた千尋は感嘆の声を上げた。長崎産のからすみだった。
「弾んだな千迅。」
「物産展をやっていたんだよ。旨いぜ。」
 千尋は頃合いのいい皿を棚から探し盛り付ける。身軽になった千迅は食卓についた。黒唐津にからすみをのせた千尋も席に着くと、ふたりは杯に酒を注ぎ合って他愛もない話をしながら食事をした。
「おい。おまえもう喰わないのか。」
 食事を始めてしばらく経った頃、仕出しをとろうと云ったわりに箸の進んでいない千尋に千迅が云った。
「……残りは明日もらうよ。」
 千尋はわずかに顏を俯けて杯に口をつけた。庭からは鈴虫とクサヒバリの鳴き声が混じり合って届く。
 一通りの食事を済ませた後食卓を片付けると、千迅は縁側で一服していた。風呂を立てにいくと云う千尋を、千迅は呼び止めて傍に来るように手で促す。なにの用があるのかと首を傾げながら千尋が近くに寄ると、千迅は灰皿に煙草を押しつけて、その腰を抱き寄せた。
「おまえが喰わないときは解りやすいよな、」
 千尋が弱いと解っていて、千迅は耳元に直接吹き込む。
「最近こっち、使ってなくて寂しかっただろう。」
 千尋の腰を抱いた手が不埒に下に伸びる。千尋は顏を真っ赤にして千迅の胸を押し返す。
「やっ、めろ……、んっ……、」
「切ない声出てるぜ。」
 千尋の抵抗は長くは続かない。千迅と逢えない間に躰はすっかり切なくなっていた。誰かを抱くことはあっても、その躰を抱くのは異母兄だけだった。独りでしても欲しくてたまらないところにはどうしても届かない。放っておかれた躰は熱を持て余していた。直裁的に前も撫でられるとそこはすぐに反応する。
「気持ちがいいことだけ考えろ……。」
 熱っぽく囁かれると千尋の理性は容易く崩れていく。溶けるぐらいに唇を重ねると、部屋を移して千迅のために用意していた客用布団に押し倒される。糊のきいた清潔なこのシーツが、この後あっという間に皺が寄り、汗と体液によって湿って柔らかくなるのだと思うと、あまりのいやらしさに千尋は目眩がした。
 千尋の躰のどこが悦ぶのか、どの程度すれば我慢ができなくなるのか、その差配のすべては千尋の上で好きなように振る舞う男に握られている。
「あぁ……っ、や……だめ、千迅……いま、イッてるから……、待っ……て、」
「はっ。絡みついて離さないのはおまえだぜ。もっとよくなれるだろう千尋。」
「やぁ……アっ……あぁ……、」
 強すぎる快楽から逃れようと布団の外に這い出ようとしても、簡単に引き戻されて腰を打ちつけられる。前も後ろもぐずぐずに溶かされた千尋はシーツに縋って喘ぐことしかできない。独りではすることのできなかった奥のさらにその奥まで暴かれて、絶え間なく与えられる快感に泪をぼろぼろとこぼした。白んでいく頭と、瞼の裏で明滅する光が千尋の何度目かの絶頂が近いことを知らせていた。

  ◇

 秋の風がふわりと窓から入り込む。傍らの男はすっかり落ち着いた様子で煙草を喫っていた。
「ちはやにいちゃんって、昔はあんなにかわいかったのになあ……。」
 遠い目をして溜息をつきながら云うものだから、あの後も散々好きにされた千尋はたまったものではない。
「無茶しておいて……よく云う……。」
 余韻の引かない躰のままの千尋が枕を抱きこみながら恨みがましく云うと、千迅は可笑しそうに笑う。
「はは。ごめん。だが、喘ぎ声はなかなかかわいかったぜ、」
 そのまま煙草味のキスをされる。歳の差のせいだけではない。千迅にはいつもこうしていいようにされてしまう。そしてそれが厭だと思っていない自分にたまらくなった千尋は、泪の浮かぶ睛を枕に押しつけて小さく唸った。