はないちもんめ

※このお話は尋迅です。苦手な方はご注意ください。

  ◇

 

 千尋は溜息をついて高井戸のマンションの部屋を訪ねる。ただいまとリビングに入れば、帰ったのかと意外そうな異母兄の声が返ってくる。ソファに座ったまま、千尋の方に顔を向ける。
「今日は御殿山に泊まるんぢゃなかったのか、」
「……凜に振られた。氷川くんと食事に行くらしい。」
 ぶすっとした顏で千尋が云えば、千迅は盛大に面白そうな顏をする。
「ざまあないな。せっかくの家元の留守だったのにな。上がり込んで好きなことをするんぢゃなかったのか。」
「煩いな。放っておいてくれ。さっさと寝るなりなんなりしろよ。」
 千尋がむっとしたまま風呂へ向かおうとすると、腕を掴まれる。
「つれないこと云うなよ。こっちはおまえが来るって云うから休みを取ったっていうのに、おまえはあっさり御殿山に泊まるなんて云って出て行ったんだぜ。振られたからって戻ってくるのは、あまりにも都合よすぎないか、」
「……どうすればいいんだよ、」
 千尋は掴まれた腕に熱を感じる。逃げ出したいような、そうはしたくないような。答えを相手に預けることしかできない、熱。
「慰めてやろうか、」
 ぐいと腕を引き寄せられる。
「躰で。」
 千迅は座ったまま上目で誘う。衣服越しの接触でも、千尋の体温を上げるには十分だった。
「凜一にしたかったこと、してみろよ。」

     ◇
 
 ベッドがゆっくりと軋む。下にいる千迅が小さく喘ぐたび千尋の背をぞわぞわとした興奮が走る。
千尋が、やめて、まってと云っても、一切手加減をしない千迅が、いま千尋の下で、千尋が触るたびに息を洩らして快楽を感じている。堪らなかった。
「おい……、莫迦にやさしくするぢゃないか……。おまえ、凜一には、いつもこうなのか……、」
「莫迦はどっちだ。凜はまだ子どもだぜ。やさしくしないでどうするんだよ。」
 ぐっと中を抉ると、千迅の腰が跳ねる。
「はっ……。その……、子ども相手に、下心を抱いているのは誰だよ。」
「……千迅だって凜としているだろう、」
 上と下で云い合いながらも、互いの息は上がる一方で、つながったところからは耳を犯す淫らな水音が響く。互いの躰をまさぐりながら、ここにはいない甥っ子を想起して倒錯する。悪事を共犯するような背徳に、千尋は一層のめり込んだ。
「ここは凜の好きなところなんだ、」
 夢中になる千尋が千迅の中を擦り上げると、下にいた千迅が突然千尋を押し倒して馬乗りになる。急に天地がひっくり返った千尋はすぐに反応できない。
「そろそろ他の男の話はやめろよ。」
 千迅は荒い息で汗に濡れた前髪を掻き上げる。千尋は息を呑んで見惚れた。躰中の血液が一点に向かって沸騰する。
「下から突けよ。俺はそれが好きなんだ。」
 上になった千迅は、欲に塗れた顏で千尋を欲しがっていた。千尋は強く、千迅の中を突く。
「日和るなよ。泣いたってやめないからな。」
「上等だ。泣かせてみろよ。」
 異母兄が不敵に笑う。千尋はどうやってこの手強い兄を泣かせてやるか、千迅の悦いところを手当たり次第に触って欲を引き出していく。先に泣くのはどちらなのか、あとはふたりきりで存分に求め合った。