キャンディ・キス・チャレンジ

「学生の間で流行っているらしい、」
 正確に云うと学生のカップルの間で、らしいが。そう云って大学で講師を務めるこの叔父はどこか人の悪そうな顔をして凛一の前に立っていた。凜一は夏期休暇を利用して叔父の借りる池畔の家に遊びに来ていた。
「面白そうだろ。」
 そう云うと絶句している凛一の返事を聞かずに、人の悪い笑みを浮かべたまま凛一の叔父―千尋は珍しく首に巻いていたそのネクタイを緩めると凛一の目をに巻き付けた。
 キャンディキスチャレンジ。学生の間で流行っているかどうか、その学生であるはずの凛一は聞いたこともなかったが、ごく狭い交際範囲しか持たないために千尋の嘘だとも決めつけられずされるがままになっていた。
「さあ何の味か当ててごらん。」
 見えなくてもわかる凛一を揶揄う千尋の顔が脳裏に浮かび舌打ちしようとするが、それよりも早く凛一の口内に千尋の舌が侵入する。目隠しをされた状態で、キスで与えられる飴の味を当てるというゲーム。千尋の舌を受け止めながら凛一は困惑していた。
「味は舌であじわうものだが、食事は目で食べるとも云うだろう。見ていなくても味わうことはできるのか、凛一どうなんだ、」
 キスの合間に千尋は意地悪く問いかけるが、凛一はそれどころではない。口の中を行ったり来たりする飴玉は、凛一の口蓋を刺激する。ころころと転がる飴を追いかける千尋の舌はいつもとは異なる動きをするため、不意に歯列の裏をなぞられたりして凛一は声が漏れそうになるのを必死に堪える。視界が塞がれ先の予想ができない不安と、やけに鋭くなる聴覚が二人で立てるいやらしい水音を拾って腰の辺りをぞわりとさせる。
「なあ凛一、このままだと飴玉なくなっちまうぜ、」
 千尋は角度を変えながら浅く、深く、凛一の好いところを舌でなぞってくる。
「兄さんは……、意地が悪い……、」
 やっとのことでそれだけ云い返すが、きゅっと舌を吸われると声が漏れるのを堪えられなくなった。
「ああ……、もう、もっと……、さわって……、」
 堪えられなくなった凛一は自分から唇を差し入れる。
「それじゃゲームにならないだろ、」
 そう云いながらも千尋は凛一を抱き寄せると舌を絡め返した。いつの間にか飴は溶けて消えていた。

     ◇

「それで、あの飴は何味だったんですか、」
 乱れた衣服を整えながら凛一が尋ねる。上半身裸のまま横になっている千尋はまた意地悪く笑った。
「初めてのキスの味は、」
「レモン……、」
 つられて返してしまった凛一は、急に羞恥が込み上げてきて傍にあった千尋のシャツを投げつける。
「そうか、俺としたあのキスはレモン味だったのか、」
「千尋兄さんなんてもう知りません。」
 喉を鳴らして笑う千尋に、凛一は顔を赤くしてそっぽを向いた。

2023年10月22日