いぢわる

 千迅としていると千尋は我を忘れてしまう。喉奥から絞り出す声は掠れ、あふれる泪は睛を溶かし、脳には酸素が行き渡らず、奥は痺れて痙攣している。千尋はうつ伏せに横たわっている布団から指先一本動かせずにいた。
「呑むか、」
 台所から水を汲んできた千迅がコップを差し出す。千尋が頷くと、千迅はその躰を抱き起こして、口までコップを運ぶ。こくり、こくりと、千尋の嚥下のペースに合せてコップは傾き、わずかに唇からこぼれた水分は千迅の親指で拭われる。先ほどまでの行為の延長で、つい、舐めてしまいそうに、なるけれど。
「今日は随分と可愛かったな。」
 そう云われた千尋は途端に耳まで熱くなる。もう何度もしていることだというのに、終わった後、甘く囁かれることに未だ馴れない。普段は口喧しい異母兄だから、尚更。
「そんなこと……ない……、」
 千尋は顏を背けて千迅の胸を押し返す。しかしそれよりも強い力で抱き寄せられて、紅く染まった耳を食まれる。まだ情事の熱が引かない躰は、ぞくりと震えた。
「可愛いぜ千尋。」
 千尋の反応を見透かして揶揄っているのだと、解っているのに反応してしまう躰が口惜しい。
「でも千迅はいぢがわるい。」
 精一杯の抵抗に口を尖らせてみる。
「へえ。云ってみろよ。」
「……してって、云うまで、してくれないぢゃないか。」
 解っている癖に。絶頂の手前まで連れて行かれては、千尋が音を上げない限り、千迅はその先には連れて行ってくれない。何度も何度もその波を繰り返して、堪らなくなった千尋が強請るまでその責め苦は続く。千尋の限界など、とうに知り尽くしている癖に。
「ああ……。べつにいぢめているわけぢゃないぜ。」
 千迅のふっと笑う声がしたと思った瞬間、強引に顎を捕まえられて唇を被せられる。不意打ちの口づけに、ただ受け身でいることしかできない千尋はされるがまま。
「欲しがられたほうが、興奮するだろう。」
 長いキスの後、ようやく千尋を解放した千迅は、こともなげに云って色めく。千尋が口をはくはくとさせていると、千迅は一層躰を密着させて千尋の髪を撫でる。
「もっと欲しがってみてくれよ、千尋……、」
 あまりにも甘美な誘惑に、千尋は躰の熱を持て余した。

※2023/1/15に一部修正しました