※バーベキューをする氷凜+異母兄弟のお話。この人達絶対バーベキューしないと思うんですよ。しないと思うからさせてみました!氷川さんにはお肉をいっぱい食べてほしいです。拍手お礼として公開していたバベキューの後に異母兄弟パートを追加しました。みんなで楽しく過ごした後はふたりだけの時間が欲しくなるものですよね。異母兄弟にがっついてもらいました。この異母兄弟パートにはリバ要素あります。苦手な方はご注意ください。
いい肉を貰ったんだと、千尋は異母兄に冷蔵庫の中を見せる。
「へえ。いいぢゃないか。」
ハラミ、ロース、ミノ、ホルモンと、肉は種類ごとに袋分けされている。口の奢った千迅の反応に千尋は満足する。
「だろう。お中元みたいなもんだ。今日の夕飯はこれでどうだ。」
「それはいいが、どうやって焼くんだ。フライパンか。」
「大学の同僚からグリルを借りて来た。庭で焼こうぜ。」
「へえ。たまにはそういうのもいいな。」
「だろう。ちょうど凜一も来ているし、氷川くんも呼ぼうぜ。量も結構あるんだよ。」
千尋の提案に千迅は頷く。八月だった。明倫館大学への進学を検討する氷川が大学見学に訪れたのに合せて、凜一も夏期休暇を利用して京都に来ていた。千迅も夏の休暇を取って千尋の池畔の家に滞在していた。氷川と凜一は連れ立って京都の市内に出掛けている。
「子どもの頃、竹雄でもやったよな。」
「そうだったな。おまえが親父と来て、花火もしたな。」
そんなことを云いながらふたりは網を用意し、炭を出す。夏の陽は長いが翳りが見える。凜一達が戻ってくることを予測しながら、千迅が火起こしの準備をする。
「千尋兄さん。どうしたんですか。」
氷川と連れ立って戻って来た凜一が驚きの声を上げる。
千迅は庭先に出したグリルに向かって団扇で風を送り、室内では千尋が袋に入った肉を皿に載せて運ぶ準備をしている。
「肉を貰ったんだよ。今日の夕飯だ。氷川くんも食べていってくれ。たくさんあるんだ。」
連絡が必要な電話を使ってくれと、千尋は氷川が食べて行くと決めてかかっている。
「氷川さん。千尋兄さんはああ云っていますが、都合があれば断ってくださいね。」
凜一は氷川を気遣うが、氷川は首を振る。
「せっかくだからご相伴させてもらうよ。連絡だけ入れさせてもらってもいいか。」
凜一は氷川に電話を貸すために縁側から室に上がる。
「凜。ついでにこれ持って行ってくれ。」
氷川に電話の場所を教えると、凜一は千尋に呼ばれて肉の皿を渡される。
「ひとまず縁側に置いておいて、続きを取りに来てくれ。」
台所には茹でた枝豆がある他にはビール瓶と麦茶のポット、人数分の箸や取り皿、コップが用意されている。
「タレは作ったんだぜ。」
千尋が取り皿には醤油タレが入っている。薬味の匂いが食欲をそそった。凜一は台所と縁側を往復して準備を手伝う。
「俺も手伝いますよ。」
宿泊先への連絡を済ませた氷川が声を掛ける。
「氷川くんはこっちを替わってくれないか。」
庭の千迅が云う。いいですよと答えた氷川は庭先に下りる。
「暑くてかなわない。」
千迅は氷川に団扇を渡すと、縁側に座って煙草を喫む。
「おいさぼるなよ。用意できたから焼こうぜ。」
千尋は千迅に菜箸を渡すと庭へ下りる。室から持ち出した足の長い折りたたみ机をグリルの横に置くと、肉や切った野菜を置く。
千迅は煙草を灰皿に押しつけると腰を上げる。グリルの火は問題なく炭に移り安定して燃えている。風を送る氷川の傍には凜一もおり、しきりに感心している。
「もういいぜ氷川くん。凜一、麦茶があるから氷川くんに注いで、おまえも好きに呑め。」
凜一は氷川を縁側に導くとコップを持たせて麦茶を注ぐ。千迅は火グリルの端に野菜を並べると、いよいよ肉を焼く。脂の燃える音が響く。
「おい千尋。俺にもビールを寄越せ。凜一はビールばかり呑むな。肉を喰え。氷川くんは足りているか。もっと喰えよ運動部。」
千迅は手際よく肉を焼き、それぞれの取り皿に分けていく。途中で凜一が肉を取ろうとすると「まだだ。」と止められる。それが解りきっているのか、千尋は完全に待ちの態勢で枝豆を摘まみながらビールを呑んでいる。
「千迅さん食べられてないですよね。俺、替わりますよ。」
客人の氷川が気を遣って声を掛けるが、千迅が何かを云うより早く千尋が答える。
「気を遣わなくていいぜ氷川くん。千迅は網の上を勝手に触られる方が気に入らないんだ。焼き加減や何やらこだわりがあるんだ。有り難く世話になった方が旨い肉が喰えるぜ。」
「勝手なことを云うな。おまえが何もしないからこうなったんだろう。これだから本家の末っ子は困るぜ。やってもらって当たり前なんだからな。」
「面倒見のいい兄さんがいて助かるぜ。おいそこの肉をくれ。もう焼けているだろう。でもまあそう云うならビールぐらいは注いでやろう。」
異母兄弟のやり取りの横で、凜一は申し訳なさそうに氷川に謝る。
「兄さんたちがすみません……。いつもこの調子で……。」
「謝るなよ。楽しいぜ。部活でも大勢で肉を食べることはあるが、色々気を遣うこともあるから、誘ってくれて有り難い。」
そう云うと氷川は空になった凜一のコップにビールを注ぐ。
「ぼくは氷川さんと一緒に、夏休みが過ごせたのがうれしいです。」
注いでもらったビールを握りながら笑顔を浮かべる凜一に、氷川の胸は騒ぐ。
陽はまだ落ちきらない。蝉の声も止んで火の爆ぜる音が柔らかく響く。まだ宴は終わりそうにない。
◇
昨晩の焼き肉は片付けまで含めると九時過ぎまで続いた。夜が明けてから網やグリルの始末をし、朝食を摂ると凜一と氷川は帰り支度をする。凜一は氷川との帰路が嬉しいらしく気持ちが表情から洩れ出ている。ふたりの見送りに千尋と千迅は玄関先に出ていた。氷川と凜一は先に東京に帰るが、休暇が続く千迅は池畔の家に残る。
「あんなに嬉しそうに帰られちゃ千尋兄さんは淋しいな。」
「煩いな。」
千迅の揶揄いに千尋は憮然として答える。氷川と出逢ってからの凜一は、すっかり兄離れをしたような態度を取る。それを手放しに喜べるほど千尋は大人になりきれてはいないが、そんな千尋の気持ちなどおかまいなしに凜一は辞去の挨拶をする。
「それぢゃあ兄さん。お世話になりました。」
「結局泊めてもらって、ありがとうございました。」
凜一と氷川がそれぞれに云う。昨晩は遅くなったため、泊まっていくようやや強引に千尋が云ったのだった。郊外にある池畔の家から氷川が宿泊する知人の家までは距離があった。
「こちらこそ久々に賑やかで愉しかったぜ。凜一、気をつけて帰れよ。氷川くんはよかったらまた来てくれ。」
千尋が家主らしく云うとふたりは笑って頭を下げる。
「おい。俺には何かないのかよ。」
玄関の上枠に手を掛けた千迅が不満げに云う。
「千迅さんは東京でも逢えるぢゃないですか。」
「昨日あれだけ肉を焼いて世話をしてやったのに薄情なヤツだな。」
「お肉はおいしかったです。」
「はっていうのはどういうことだよ。可愛げのない。氷川くん。凜一によく云っておいてくれよ。」
「氷川さん。千迅さんの云うことなんて訊かないでくださいね。いつもああなんです。」
「凜一は兄さん達が相手でもムキになるんだな。」
氷川はおかしそうに笑う。
「もう帰ります。氷川さん行きましょう。ぼくらが来たのはお邪魔だったでしょう。後は兄さんと仲良く過ごしてくださいね。」
凜一はそう云うと表で待たせていたタクシーに氷川と乗り込む。窓越しに頭を下げる氷川に、千尋と千迅は手を振って応える。
「ったく口の減らないヤツだ。」
「千迅のせいだろう。すぐ凜のことを揶揄うから。」
タクシーの姿が見えなくなると、千尋が先になって玄関に入る。千迅が玄関の戸を閉める。
室内は森閑としている。口もきかず下駄も脱がず立ち尽くす刹那、千迅が千尋を引き寄せようとするのと、千尋が千迅に身を預けようとしたのは同時だった。千迅が千尋を無言で引き寄せて唇を被せる。千尋はすぐに唇を開いて千迅を迎え入れた。ふたりの躰の間には僅かの隙間もない。湿度が高まっていく。
「おまえ、どっちがいいんだ、」
千尋の躰を壁に押さえつける千迅はキスの合間に問う。千尋のシャツの裾から手を這い入れて肌を弄る。千尋もキスを交わしながら千迅のシャツの釦を外す。興奮が隠しきれないそこを千迅のそれに押しつける。
「ど……ちでも、い……か、ら……、早く、」
足の間に差し入れられた千迅の腿に支えられて、辛うじて姿勢を保つ千尋は息が切れている。互いのバックルに手を掛ける頃には堪えきれなくなって玄関先の床に倒れ込む。
「ぁ……っ、も……ちはや……、」
「まだ……イくんぢゃないぜ、」
どちらかが達するたびに、縺れ合いながら寝室に近づいていく。敷かれたままの布団に千尋を寝かすと、千迅はその上に跨がる。抜かれてなお肚のに残る錯覚に酔っていた千尋は、新たな刺激に小さな悲鳴を上げる。千迅が千尋を呑み込んでいく。
「っ……はっ……、」
散々に千尋の中を突いていた異母兄とは違う色めいた声に千尋にも新たな興奮が喚起される。
「千尋……、なぁ、」
緩く腰を揺らす異母兄が甘ったるく請う。こんな異母兄を他の誰が知っているだろうか。千尋は息が整うのも待たず千迅を押し倒す。締め付けてくる強さが千迅の興奮なのだとしたら千尋は堪らなかった。
「凜一の捨て台詞どおりだな。」
千尋の隣で横になる千迅が呟く。帳は下りていた。ふたりとも起き上がる気力も体力もなく、微睡みながらぼんやりと時間を過ごしていた。
「仲良く過ごしてくださいってやつか。」
「ああ。仲良く過ごせたな尋くん。」
千迅は千尋とふたりきりだと、よく幼少期の名前で揶揄う。千尋の方では今更「はやにい」など素面ではとても呼べない。
「知るかよ。」
何とも云えない千尋が千迅に背を向けると、すぐに後ろから抱き抱えられる。千尋がされるがままになっていると、やがて穏やかな寝息が聞こえてくる。直接肌に触れる千迅の体温も心地いい。やがて千尋も眠りに落ちていった。