【小説】東雅夫編「妖花燦爛 赤江瀑アラベスク3」

赤江瀑・東雅夫編「妖花燦爛 赤江瀑アラベスク3」創元推理文庫

本当に本当に豊作の短編集でした。赤江作品って天才な設定が多すぎて目眩がします。
もう赤江作品といえば春ですね。妖艶な春の物語に気もそぞろになります。
お気に入りには★つけています。

平家の桜

湯治場で聞くあまりにも美しい桜の谷のお話。大学入学を控え最後のモラトリアム中の湯治場の先客篤彦くんと、桜を見てきたという学生の美濃村くんが、篤彦くんを宿の人と勘違いして話掛けるところが気安くてとてもよい。

櫻瀧

飯場で共に働く東蔵が、毎年同じ時期に不意に消えて気づけばまた戻ってくる。一体どこで何をしているのか気になった竹岡はとうとうある年その後をつけて秘密を覗き見してしまう……。桜に心が狂わされて、交わらずにはいられなくなってしまう男の話。

春の寵児

とにかくエロい。最初は男の子を見守る視点から始まり、ほのぼのした話なのかと思えばさにあらず。本当にエロい。春は人の気を狂わす季節ですね……。

龍の訪れ

これは姉妹もの。亡くなった妻のことばを頼りに関門海峡までやって来た英孝。生前は癇癪の強い妻との関係に手を焼いていたが旅先で知る妻の秘密……。

恋川恋草恋衣

大女優・濤子が色紙に書いた絵が屏風になっているという噂を聞きつけ北国脇街道にある古い旅館に向かう一行。けれど当の濤子は書いた覚えもなければそもそも絵は描けないといい、深まるミステリー。そこには秘められたある恋の話があり……。

霧ホテル

「恋川恋草恋衣」の濤子さんが再登場。地唄舞の人間国宝兵衛門とホテルのラウンジでするひそひそ話は、ふたりが遭遇した幽霊の話。芸と美の世界に生きるふたりの前には、死んでもなお芸と美を求める幽霊が現れる。

阿修羅花伝★

能の家元春睦くんとその後見役の雪政さんの主従がとてもよかったです!年下の家元を分を弁えてよく支える雪政さんと兄のように雪政さんを頼る春睦くん……良……。能の技量は雪政さんの方が上だけれど、決してそうは見せず、またその真の技量を知っているのは春睦くんだけとのことなんですが良すぎか。そんな主従ですが最後に情に打たれた雪政さんがある懇願を春睦くんにするんですが、それを家元としての判断でばっさり断る春睦くんがまたいいんですわー!!家元とは技量だけでなく判断力……。そう思わされる最後がとても好き。

奏でる艀★

船に乗ってお墓参りに行くという設定がもう天才。彼岸と此岸、三途の川渡り、この設定二次創作で使わせてもらいたいぐらい好き。最後に読者が見ている世界がくるっとひっくり返るのがさすが赤江作品。

伽羅の燻り

師匠と弟子。妻よりも献身的に師匠に仕える弟子。そんなの嫌いなわけないじゃん。尺八の師弟と浅からぬ関わりを持つ男がその師匠の妻の元を訪ねて来て……。甲斐甲斐しくお世話する弟子と師匠の日常が私はもっと見たい。

静狂記

これも姉妹もの。小説家の姉黛子と随筆家の妹蝶子が一人の板前の男を巡る執着と執念の半生。いやーもう三角関係書かせたら瀑さんは最高ですよ。

阿修羅の香り

赤江作品は他者には見えない何かを見てそれに執着する話も定型としてありますね(「宵宮の変」か)この作品では阿修羅が見えた男の話。たったひとつの恋が、宿命的に過ちだったと知ってしまったとき、女はその恋を守るために命を賭ける。

刃艶

最後が心情的にエグい。刀剣の研師清景鞆彦に恋をした日和子お嬢様のお話なんですが、恋をしたのに行動しなかった日和子さんがいけなかったのか、千江さんが強かなのか、語られていない空白の時間が長すぎて解らないけれど、私は日和子さんの千江さんに対する情念を感じるんだよな……。

星月夜の首

これも見てしまった奇妙なものが頭から離れなくなってしまった男の話。今回は花の市場で見た一足の長靴。この長靴について探っていくうちあんな忌まわしいお庭での遊びが明らかになるなんて……。わお……。

狐の鼓

鼓の皮にされてしまった親狐を慕って追いかける子狐の昔話がベースのお話。孝行な子狐ちゃんがかわいい。

しびれ姫

江戸の町のあちこちに出現する血染めの小袖。それはかつて一世を風靡した世話狂言『心謎解色糸』で使用された衣装で……。なぜ今頃その衣装があちこちで目撃されるのか。その影には「しびれ姫」の秘めた恋があったのです……。

夜を籠めて★

詩人・画家・宝飾金属の細工・装飾工芸などマルチに活躍する秋羽秋彦。彼にはかつて袂を分かつた師がいて……。師弟のクソデカ感情が読めます。最初は師→弟子だった矢印が師←←←弟子となってしまい起こるすれ違う悲劇。わあーーーーー!!これはぜひ読んでほしい!!!

以下エッセイ。
風狂の途
切り穴
柔らかい緑いろの空
血天井雑感
花の虐刃