【映画】窓ぎわのトットちゃん

窓ぎわのトットちゃん
八鍬新之介 監督 
シンエイ動画製作

観に行くきっかけはツイッタに広がる口コミで、ジブリの美術監督でお馴染みの男鹿和雄さんが美術スタッフで参加しており、美術監督はこれまたジブリの「かぐや姫の物語」やアニメの「平家物語」の串田達也さんということで、これはとんでもなく美しい映画なのでは!?ないかとうきうきしたのが発端です。

映像への期待は高まる一方でしたが、正直なぜ今トットちゃん?という気持ちがないわけではなく、気軽な気持ちに観に行ったらこれは……これはもう……(目頭押さえる)最高の最高な映画でした……!本当みんな観に行って……!!!お正月休みラストチャンスかもしれないので!!!

よく言われていますが落ち着きのないトットちゃんは今でいうところのADHD的な傾向があり、お母さんと道を歩いていても急に飛び出してあわや車に轢かれそうになったり、衝動を抑えられないので学校の授業中でも悪気なく自由な動きをして結果的には授業妨害。先生には「もう学校には来ないでください」と申し渡されてしまいます。もう本当にお母さん大変だったと思います。ひとつでも何か違っていたら死んでてもおかしくない動きをするので、片時も目を離せないとはこのことです。

そんなことがあっても天真爛漫に見えるトットちゃんが新しく通うことになったのがトモエ学園。廃列車が校舎の素敵な学校で、トットちゃんは一目で気に入ります。けれど本当に素敵なのは校長の小林先生。小林先生はトットちゃんと話しをするからとお母さんを帰らせ、機関銃のように止まらないトットちゃんのお喋りに4時間付き合います。

これ4時間付き合う先生もすごいんですが、4時間も話し続けられるトットちゃんも相当すごいと思うんですよね。色んなことを見て、感じて、考えているから4時間も話せる話題があるわけで。

そんな4時間のお喋りの後、とうとう話題が尽きたトットちゃんに小林先生が「もうお話はないかな」と優しく訊ねると、トットちゃんは「……みんなね、私のこと困った子だって言うの」とぽつりと言います。わーーーーーーー!!!!自由闊達で大人のことなんてどこ吹く風のように見えるトットちゃんの、奥の奥の奥にある小さな悲しみが、4時間喋ってようやく出てくるんです。泣く……。

4時間喋らないと出せないんですよ。トットちゃんはどうやら自分は誰かのことを困らせるているということは分っていて、でも上手に言葉にはできなくて、小林先生に何でも話していいよ、まだあるかい?と訊かれてやっとやっと言えるんですよ。いじらしい……。

そこであまりにも有名な小林先生の「君はいい子だよ」という言葉を掛けられるわけわけです。小林先生……もう全世界の子ども達に掛けてあげたい言葉。どんなにやんちゃでも偏屈でも可愛げがなくてもみんなみんな子どもはいい子なんだよ……。うわーーーーーん!!!!!

ここが前半のハイライト。この後トットちゃんは小児麻痺を患う泰明ちゃんという男の子と仲良くなり、互いのことを理解しながら成長していきます。

この泰明ちゃんとの関わりもいいんだよ!泰明ちゃんは体が不自由なので、みんなで行くお散歩にも遠慮して行かなかったり、楽しい水遊びにも参加しようとしなかったり、最初から色々諦めているところがあるのだけれど、トットちゃんという友達を得てから少しずつ変わっていきます。

ここでいいのは、この泰明ちゃんのことは勿論小林先生も気に掛けていて、折に触れて彼に働きかけをするのだけれど、泰明ちゃんの心は動かないんですよね。あんなに子ども達のことを想っている小林先生でも泰明ちゃんを変えることはできない。

それが同い年のトットちゃんとの関わりで彼が変わっていくという描写が本当に丁寧で、友達ってそういうこと!気持ちが熱くなります。勿論小林先生たち学校の先生たちが丁寧に丁寧に子ども達のことを見守っているからこそ起こる変化なわけなんですが、友達によっておっかなびっくり自分の限界を超えていく泰明ちゃんは必見です。本当に泣く……。

本当にいいシーンの多い映画で、戦禍が拡大し始めると、トモエ学園には障害のある子ども達もたくさん通っているので、近所の悪ガキたちが囃し立てて馬鹿にしに来ます。石を投げられ、竹槍で威嚇されたときに、暴力を暴力で返すことなく、でも悪ガキ達にはNOを突きつけるトットちゃん達の戦い方は、もう本当に素晴らしいのでここも観てほしいところです。

戦前の自由で豊かで穏やかな生活(黒柳家が上流階級というのもありますが)が、戦争が拡大するにつれ削られ全体主義へと傾いていくじわじわとした描写に、月並みですが本当に戦争はしてはいけないんだという思いになります。

生活が削られていくという自分と地続きのことと、戦争がなければ自分の人生を生きていただろう人達の描写が本当につらい。だって戦争がなければ手足が吹き飛ぶことも、大切な息子が亡くなることも、心がめちゃくちゃになることも、なかったのに。

戦争は人の人生を奪うということ。そして戦争をするとどうなるのかということが、血も飛ばないし、過激な主張もないのだけれど、ただただ淡々と描写されていました。

そしてこの映画の美術です。黒柳家も泰明ちゃん戦前の裕福な家庭のご子弟なので、立派なお屋敷やハイカラお洋服など、文化の豊かさが見えて本当に好きでした。

戦前の和洋折衷でモダンな文化が好きな人も観た方がいい。文化考証もものすごくされている上、美術陣が鉄壁の布陣なのでいいに決まっているんですよ。ジブリの系譜は完全にこの作品ですね。

アニメ映画って色々流行っていますが、安心して子ども達にオススメできる作品って、ぶっちゃけジブリ以後あんまりないなと思っていて(ドラえもんなどの老舗子ども向け作品は別としてね)

トットちゃんは説教くさいわけでは全然なく、美しい映像と、人と人が関わることで起こる心の交流の奥の奥までを描く繊細さと、丁寧に時代考証された脚本の上質で心に沁みるいい映画でした。